半年に一度、拙著『はじめてフィンランド 〜白夜と極夜ひとり旅〜』の電子書籍版の売り上げ報告が出版社さんから書面で届きます。
それが届くたびに「こんなに多くの方が、無名の、細々とマンガを描いているだけの私の作品をわざわざ買ってくださったのだ」ということに震えます。
しかし、その数はおそらく出版社さんが期待している数値には全然ケタが足りていない。
長年、出版不況と言われる中、私のような無名の新人の書籍を発刊するのは身を斬るようなことだったのだろうと思います。その恩に報いるには、私のSNSの全フォロワーを足しても足りない数の本を売らなければいけない。
でも私にとっては、私のことを知らない何千人、何万人が私の作品に触れることを「当たり前」とするのはまだまだ難しい。
この世界のどこかのたった1人、それが日本に住んでいる人かもしれない、フィンランドに住んでいる人かもしれない、全然違うどこか別の場所の人かもしれない…そんな人と私の作品がたまたま出会うことができて、何かの引き合わせで手に渡ることができる、それがいかに得難いことか。
さらにいえば、その中でも「買って読んでみた上で、満足できた」という人はもっと少ないわけで、自分の作品を人に愛してもらえることは決して当たり前ではないし、なんなら「いや、嘘でしょ、そんな奇跡そうそうないでしょ」と思っています。(そうであればこそ、そんな奇跡のようなことを起こすためにはその時の自分にできる最大限の力で作品を作り続けなければならないとも思います。)
売上報告を見るたびに、出版社さんと、担当してくださった編集者さん、私が直接顔を見ていないこの本に関わってくださった全ての方に申し訳ない気持ちになります。それは、業界の方々にとっては私が「売り物にならない作家」であったことに対する申し訳なさです。
本気でこの本をたくさん売って重版がかかるようにするなら、もっともっといろんな人に・いろんな場所で紹介したり、買って欲しいアピールをしたり、宣伝したり、できることはいろいろあるはずだと自分でも思います。
でも私自身が「数」を最大化することよりも、今ここにある一つ一つの数字を大切にしていきたい。必要な人のところには渡ってほしいけど、必要ない人にまで無理に買わせるようなことはしたくない。これだけ情報も商品もサービスも溢れかえっている時代に、「その人にとって本当に必要なもの」よりも多くのものを買わせるようなことはしたくない。
出版でも、お仕事でも、短期の数字を追い求めるよりも、そうやって一つ一つの出会いを大切にする方が長期的には実りが多いはず…という負け犬の遠吠え的な言い訳もあります。そしてこの考え方が本当に正しいのか、本当に「長期的には実りが多い」という結果になるのかどうかは、数年、数十年の時間をかけて人事を尽くして天命を待つしかありません。人生の長い実験です。
とはいえやっぱり、私がその実験をするのは勝手だけれど、私以外の人がそんな実験に付き合わされて負債を負わされるいわれはないので、申し訳ないです。
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